過去の学術研修会ー第30回ー

第30回学術研修会講演会事後抄録


講師:筒井 照子先生
(北九州市開業)

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全身の中での顎口腔ー下顎位・歯列・咬合面形態・下顎運動を再考するー

平成18年11月12日、岩手県歯科医師会館8020プラザにて学術講演会が開催されました。講師にはの筒井照子先生(九州歯科大学出身、北九州市開業)を御招きし、「全身の中での顎口腔 ?下顎位・歯列・咬合面形態・下顎運動を再考する?」というタイトルでご講演を行っていただきました。参加者は152名と新しい会場がほぼ満員、筒井先生への関心の高さにあらためて驚きました。

大学を卒業し、矯正科に残った時からずっと咬合の安定というものを追い求めて35年あまり、口腔周囲に関わる力の問題がだいぶ見えるようになってきたそうです。当日のご講演内容を簡単ですが、以下にまとめてみます。

・歯科修復学→口腔医学へ視点を変えよう
  カリエスは減っているが不定愁訴をかかえた患者はたくさんいる。
  極端な話、医科に通う患者さんの多くは歯科の仕事なのではないか。
・本当にそうなのか、なぜそうなのか、疑問を持つこと
・本質をみること
・なぜ安定し、なぜ壊れるのかを最初に考える
  知覚過敏ならなぜ知覚過敏がでてるのか考える。クラウド=抜歯ではなくなぜクラウドしてい
  るのかを考える

・炎症と力のコントロール
  炎症・・・原因と結果がつながっているので診断が容易
  力 ・・・目に見えず、簡単ではない
 「力」への診査・診断には臨床医の五感を使った全身、顔貌および口腔内の診査を目に見えるデ
  ータで必要と照らし合わせて行う。
  歯を削るというのは侵襲を加えるいわば外科的な治療であり、元には戻らないので繊細にやら
  なければならない。それなのに無造作に削りすぎているのではないか。

・35年の臨床体験から得られた結論
  顎口腔系における生体に負荷をかける力の五大禁忌
  1.Vertical Dimensionを低くすること(耳の症状がでたりする)
  2.上顎・下顎を後方に押し込むこと(ヘッドギアをさける)
  3.歯列を狭窄させること(抜歯をさける)
  4.顎関節に負荷をかけること
  5.歯列、歯牙単位ではまり込むこと

・この五大禁忌で何が起こるか
  1.気道の狭窄
  2.舌房を狭窄
  3.舌根を下げる
・そうすると
  1.酸素の供給量の減少
  2.体のバランスをとりにくくし、姿勢の悪さにつながる

・五大禁忌が起こる原因
  1.生理的な老化の過程での咬耗(咬合高径の低下)
  2.非生理的な力
   ブラキシズム(グラインディングによる咬耗、クレンチングによるディプレス)
   片側咀嚼による咬合高径の低下
  3.よくない生活習慣
   態癖により下顎を後退させてしまう
    (「態癖」参照 http://www.22i.or.jp/p0509.html
   アーチの狭窄・顎位の偏位
   窮屈な咬合から、クレンチングが起こりディプレスされる
   上口唇を巻き込む癖(上顎前歯の歯軸を舌側に傾斜させ下顎位を後退させる)
  4.軟食による中・下顔面の側方発育不全
  5.歯牙欠損・歯質欠損などの口腔疾患の放置
  6.歯科治療によって(充填、補綴、矯正によって)

・大きくしていくのが医療、小さくしてはいけない
・包括的な視点から原因をみつけて、最少の侵襲で最大の効果をあげるのが包括歯科診療
・下顎位は起こした状態でとる、Relax tapping(筋肉のスパズムのとれた下顎位)
・下顎位は日々変化する
・ドーソン法は後方に押し込む下顎位
・歯列は大きくないといけない中心裂溝が連なっていること
・咬合面形態 つきつめていくとはえたばかりの解剖学的形態の咬合面形態が理想的だった
・改良型アムステルダム型スプリント 顎位の修正及びバイトレイズしながら臼歯部が自然に咬合
・アライナーについて

ナソヘキサグラフやCT、オクルーザルを使った診査、診断についての咬合論を中心に症例をまじえてわかりやすくご解説いただきました。


●北條拓也先生(岩手医大出身、筒井歯科医院勤務)による態癖についての講演

・大半の顎口腔系は先天的には左右対称であり、それが非対称になるのは後天的に良くない持続的
 な力が加わっているとみなす。
・日常の生活習慣の中で、無意識で行う様々な習癖がある。ささいな習癖でも長期に及ぶと顎顔面
 系さらに全身に影響を及ぼす。この顎口腔系に悪影響を及ぼす習癖を態癖という。
・今ある形態から見えない力(態癖)を見つけられる想像力をつける
・全身・顔貌の変形より口腔内や見えない力を読み取る(はじめから口のなかを見るのは良くない)
・フラットな変形は横向き寝など、部分的な変形は頬杖などが考えられる

○どうしてみえなかったか
・形態の異常は目に見えるのに対して、機能の異常は目に見えない。そのため、自覚症状のない異
 常には気がつきにくい。
・今までの歯科診療は口腔内を歯牙単位でみることが多く、顎口腔、全身との関わりでみることが
 少ない
・炎症のコントロールに比べて、力のコントロールの意識がまだ少ない
・長期にわたり患者さんをみていく体制がまだ十分でない
・生体は変化し続けるもの、フレキシブルなものという考えが希薄
・資料をとり、リモデリングを起こす生体の再評価を行うという診療体制が希薄
・態癖の影響が出るのがゆっくりで、また複数の態癖がからみあっているため気がつきにくい

○態癖の見つけ方
・下顎位の変位はないか、顔面の非対称性
・ユニットに座っているときなど行動観察
・口腔内の観察
・おおよその変形を頭において患者さんの睡眠時の姿勢・頬杖等の問診
・問診時の患者さんの様子の観察
・生活環境をイメージしてもらっての習慣確認

○態癖の対処法
・舌癖 MFT
・睡眠態癖 空気枕
  下顎に枕を当てない
  左右に本などで壁を作る
  寝方の説明
・口唇癖 リップクリーム等の使用

○筒井歯科医院での学び
・なぜそのような症状がでたのか、原因を考えること
・歯を見るのではなく生体を診るということ
・常にトップダウン、ボトムアップという視点でみること(すぐに口腔内を見ない事)
・何の処置をするにしても、中で何が起きているかを想像する

35年をかけて独自に打ち立てた咬合理論を限られた短い時間のなかで凝縮してご説明いただきました。
パターン化した日常臨床を打ち壊してくれるようなご講演でした。

(学術研修部会 21期 古町瑞郎)





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