過去の学術研修会ー第31回ー

第31回学術研修会講演会事後抄録


講師:武田 泰典先生
(岩手医科大学教授)

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「開業医の方々から学んだ病理学」

武田先生は、昭和51年岩手医科大学歯学部卒業、昭和55年東京医科歯科大学大学院終了、その後岩手医科大学助手、講師、助教授を経て平成18年岩手医科大学歯学部口腔病理学講座教授に就任しました。
はじめに大学人としての自己紹介と言うことで「研究課題の二本柱」:基礎病理学的、研究実験病理学的研究、人体病理学的研究臨床病理学的研究、そして、研究成果は可及的に臨床に反映されるべきもの、研究成果は実際の教育にもある程度反映されるべきものという信念で研究なされています。
先生は色々な数多くの研究の成果をあげておられますが、その中でも国際的、全国的に献上できた研究成果例としてシェーグレン症候群(SS)の厚生省特定疾患シェーグレン病調査研究班に、歯科医師としてただ一人参加し、診断基準確立、死亡例の実態と病理学的解析、そしてヒト病変に酷似した内外で初めてのSS唾液腺病変モデルをつくり、自己抗体 (抗唾液腺導管抗体)の検出に成功しました。また、唾液腺のオンコサイトとオンコサイト症やWHOの歯原性腫瘍の新たな組織分類とそれに関連する上皮性嚢胞についての例をあげてのお話でした。

講演は4つのテーマに分けてのお話でした。
第一部は「臨床例から考えさせられたこと」というテーマでした。内容は
 ・後続永久歯欠如による乳歯の晩期残存
 ・永久歯の歯質吸収
 ・橋義歯下の骨増生
 ・萌出性腐骨
 ・放射線障害に因る無歯根
 ・融合歯
 ・遺伝性エナメル質形成不全症
 ・酸蝕症
 ・唾石の成因
 ・頬部憩室
についての内容で口腔内写真、X 線写真、病理組織写真を用いての説明、またそれらについての対処、処置についてお話いただきました。非常に毎日の診療に役立つお話でした。

第二部は「臨床例がヒントになった研究例」のテーマでの講演でした。最初は「歯槽堤吸収防止のための生活歯根埋伏実験」について、天然歯を支台とするオーバーデンチャーの意義
 ・歯根膜感覚の維持
 ・残存歯の維持、支持、把持への利用
 ・歯槽堤(顎堤)の吸収抑制
 ・義歯形態の単純化と効率化
オーバーデンチャーの限界
 ・支台歯から離れた部位での床下顎堤の吸収
 ・ときに床下の支台周囲の軟組織の炎症

これらについて、具体的な臨床例と実験の X線像、組織写真を用いて説明していただきました。
つぎに、「歯槽堤吸収防止のための生体材料埋入実験」についての講演でした。多数のインプラントの埋植が可能であれば固定性の上部構造を装着することが理想である。しかし、少ないインプラントであっても無歯顎者のQOLを向上させる目的として、オーバーデンチャーもその一つの手段となり得る。
抜歯した成犬の顎骨にバイオグラス、アパタイト、チタンなどを種々の骨接触度で埋入して何が適するかというお話です。
そして、「根管治療について」の内容で、「炎症の治癒の三原則を守れば、綿花根充でも良好な治癒をきたす。」のお話でした。
炎症の治癒の三原則
 ・原因の除去
 ・壊死崩壊物、浸出物の除去
 ・崩壊組織の補填
そして、根充後の透過像の話、水酸化カルシウム製剤による根充の予後をエックス線写真、組織写真を用いての説明でした。

第三部は「セメント質病変の臨床的意義、いわゆる根尖性セメント質異形成症について」というテーマの講演内容でした。
根尖性セメント質異形成症:根尖部に骨?セメント質様硬組織を形成する繊維性組織が限局性に増生する病変。エックス線写真的には根尖病巣を思わせる透過像を呈し、経過とともに不透過性となる。関連歯は生活歯である。大きさは1センチまでで、それ以上は大きくなることはない。
 WHO新改訂分類(2005)
 根尖性骨異形成症(前歯部)
 限局性骨異形成症(臼歯部)
いわゆる根尖性セメント質異形成症は症状がない場合は手をつけない。抜歯の場合は一緒に除去する。病変を残すと無歯顎になった時、露出し、感染、骨髄炎を引き起こすおそれがある。

第四部は「歯原性腫瘍と嚢胞の最近の動向」と言うテーマでした。
WHOによる歯原性腫瘍と嚢胞の分類は1971年、1992年、2005年に改訂されている。腫瘍の新たなWHO分類とその解説は2000年よりInternationalAgency for Research on Cancer(Lyon)がシリーズとして刊行開始していて、歯原性腫瘍は頭頚部腫瘍のなかの一つの章として扱われている(2005年刊行)歯原性腫瘍の章は各国から12名が指名され武田先生も筆頭著者として執筆しています。
2005年の改訂では嚢胞から腫瘍に分類が変わったものがあります。
 角化嚢胞性歯原性腫瘍(keratocystic odontogenic tumor) ←旧名:歯原性角化嚢胞(odontogenic keratocyst)
 原始性嚢胞(primordial cyst)
 ・錯角化上皮からなる単発性あるいは多発性の嚢胞を形成し、進行形・浸潤性に発育する。
 ・多発性のものは基底細胞母斑症候群の部分症であることが多い(常染色体優性遺伝性)。
 ・他の嚢胞性病変と比較して上皮の細胞増殖活性が高く、また、上皮異形成をみることが多い。
 ・上皮細胞における癌抑制遺伝子の欠如(PTCH genenの欠如→bcl-2,p53の過剰発現)が認められ
   る。
しかし、腫瘍とみなすことに必ずしも見解の一致をみるに至っていない。

 石灰化嚢胞性歯原性腫瘍(calcifying cystic tomor)
 象牙質形成性幻影細胞腫(odontgenic ghost cell tomor)
 旧名:石灰化歯原性嚢胞(calcifying odontgenic cyst)
 ・多くは嚢胞を形成しながら発育するので、これまでは歯原性嚢胞に分類されていたが、"嚢胞
  上皮"の組織構築はエナメル上皮腫と同様→"腫瘍"
 ・まれだが悪性型が存在
 ・嚢胞を形成しながら発育→石灰化嚢胞性歯原性腫瘍
   充実性に発育→象牙質形成性幻影細胞腫(きわめてまれ)
 ・充実性に発育する型は周囲に多少とも浸潤性に増殖
 ・いずれにも種々の程度の歯牙硬組織形成。
病理組織診断の依頼は現状ではほとんどは口腔外科からです。
体内から取り出されたものすべてについて組織検査をして、確定診断をつけて、治療法の決定や治療効果の判定などに役立ててほしいそうです。
病理組織検査(生検):確定診断を目的として生体内から病変部の一部を採取(方法は外科的手技に準じる)
 ・診断に必要な採取片の大きさ:米粒大以上
 ・採取後すみやかに固定:固定液は10?20%のホルマリン液(タンパクの凝固)
 ・可能な場合はデジカメで病変部の写真撮影
 ・骨病変の場合はエックス線写真の添付
 ・依頼書の作成(必要な臨床的事項の記載)
   患者氏名、性、年齢、既往歴、家族歴など
   臨床経過、現症
   病変部の肉眼所見など
 ・検査結果が出るまで2?3日、硬組織を含む場合は1?2週間
 ・検査結果によっては専門医へ紹介(検査結果をつけた紹介状。)
今回の講演は我々が日々行っている診療に関係した内容でとても感心を持って聞かせていただきました。



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講師:塩山 司 先生
(岩手医科大学准教授)

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「補綴臨床の成功への鍵「診察・診断からメインテナンスまで」

豪華なお弁当を食べながらのランチョンセミナーの後は午後の講演です。演者は塩山司先生。塩山司先生は昭和53年岩手医科大学歯学部卒業、岩手医科大学歯学部第二補綴学講座の助手、講師を経て平成5年助教授に就任。現在は准教授。
最初に補綴治療計画の立案、その方針をたてるために主訴に対する診察のポイントを3つのキーポイントで説明されました。

第1の鍵
(患者の主訴を主体に)瞬時に必要な項目を診察できるか。
 ・現在の状態
 ・口腔内の崩壊状態
訴えと、口腔内の状態(補綴装置、歯周組織、口腔粘膜)咬合状態を不都合があるか瞬時に判断できるか。
第2の鍵
得られた情報から補綴治療に関連することがらを口腔領域に関する解剖、生理学的な基礎事項と臨床を結びつけ、生体はもちろん口腔領域の疾病の改善をはかり、環境を健康な状態にもどし、健康な状態を維持できるように考えること。
第3の鍵
得られた情報をもとに、治療計画から補綴装置の設計を基礎的な臨床学問からどのように変換させるか、トラブルを回避するために治療を進め健康な状態を回復し維持できるように考慮された立案とその実際である。
補綴の治療(クラウンブリッジ、有床義歯)の目的とは、欠損した組織の形態と機能を補綴装置によって修復することである。患者の器官全体で相互に調和のとれた状態を再構成することである。
補綴装置には5つの機能がある。
 1.静的な機能(咬合支持域を回復)
 2.治療効果としての機能(咀嚼器官の崩壊過程を止める、遅らせる)
 3.予防的な機能(破壊的、病理的、病態生理的な状態を防止)
 4.生物機械的な機能(咀嚼機能の改善)
 5.審美的な機能(顔貌を含めた改善)
補綴装置構造の設計のための[補綴治療計画の10の要件]
1、歯列に歯の欠損があるか
欠損のパターンは6億6千8百万以上ある。欠損歯列弓の完全な修復(いかにして完全な歯数を回復するか)とは、基本的には、欠損歯により分断されたり、短列歯列を補綴装置によって完全に修復することである。そのためには構造物の原則にのっとる。
 1.歯列を補綴する場合には、なるべく歯根膜負担性の補綴装置で行う。
 2.設計は残存歯の配列状態によって決まる。
 3.静力学的な安定を保ち、歯周組織を保護する観点に立って、補綴装置を固定性にするか、可撤
  性にするか決定する。
   ・歯周疾患
   ・機能障害→咬合障害、早期接触、滑走運動障害
   ・多数歯の欠損で咬合支持域がなく、残存歯が動揺している場合、歯周組織の保護をする治
    療計画を立てる必要がある。
第4の要件
残存歯は連結固定すべきか
 ・歯周組織の機能不全
 ・歯の移動傾向のある症例
 ・動揺歯
 ・補綴装置を連結することにより、機能的な能力が高まる症例
連結を行う場合には次の事項を考慮する。
 ・臨床的な症状としては保存可能であるが、動揺している歯を対象とする。
 ・残存歯列における欠損様式。
 ・下顎位。
 ・残存歯の装着方向
 ・歯周組織の抵抗性
これらの事項を考慮し可撤性の固定装置を装着するか、固定性にするか決める。残存歯はすべてを連結してから補綴すべきかどうかは臨床症状から決めるべきである。
第5の要件
下顎位が咬合、筋肉にとって適性であるか
下顎位を変化させる際には、次にあげる要件を満足するように考慮すること。
 ・生理的咬合が得られる咬合面形態を与える。
 ・滑走運動時に咬合障害がないこと。
 ・下顎前歯が上顎前歯に水平方向の負荷を加えることがないように。
 ・顎関節への負荷の軽減
 ・対照的で調和のとれた筋活動。
第6の要件
咬合障害、滑走運動障害はあるか、障害を引き起こしている歯をいかに処置するか
 ・抜歯すべきであるか
 ・削合によって障害を除去することが可能か
 ・咬合挙上などで下顎位を修正することにより障害のない連続性を持った咬合面を作るべきか
第7の要件
どの部位の咬合が欠如しているか
第8の要件
神経筋系の機能に障害はあるか
 ・筋肉の非協調状態
 ・痛性の運動障害を伴った筋痛
 ・末梢性の障害によって、筋肉のある部分に肥大がおき(咬筋肥大)、同時に他の部分の筋肉に
   は廃用性萎縮がおこる。
 ・中枢制御機構上の機能障害が安静時の活動性(ブラキシズム)および覚醒状態に影響を及ぼす。
第9の要件
口腔衛生状態に配慮し、すべての残存歯はウ蝕に対する保護対策を行う必要があるのか(いかにして良好な口腔衛生状態を得ることが可能か、いかにして補綴治療後にウ蝕を予防できるか)
第10の要件
審美的な状態は改善できるか
顔貌に影響を及ぼす審美的な因子は
 a)歯と歯列弓
   歯の形態、色調、歯の配列、大きさ
 b)下顎位
   安静空隙の範囲内で下顎位を変化させて、審美的に対する影響を審査する
   上顎前歯のオーバーバイトの大きさは、下顎位と密接な関係にある。

次に支台歯形成のお話です。
はじめに、クラウンの支台歯形成においてこれだけ守れば適合は良くなるポイント、
6つの説明。
 ・形成面の軸面角度(テーパー)
 ・形成面の粗さ
 ・支台歯面間角度
 ・辺縁の位置
 ・辺縁の形態
 ・歯冠長
について、説明がありました。かいつまむと、
 ・形成面の軸角度(6。?8。)
 ・支台歯表面は滑沢(低速回転のコントラ5倍速、倍速で仕上げ用ダイヤモンドポイントで支台
  歯面を仕上げる)
 ・多数歯の平行性(6。以下 適合性、セメント流出抵抗)
 ・辺縁形態(歯冠材料の特性に合わせ、辺縁はスムースに)
 ・削除量は必要最小限
また、形成時の注意点として、
 ・歯の解剖を理解する。
 ・切削時の摩擦熱を防止する。
 ・よく切れる切削器具を使用する
 ・十分な注水を行う
 ・切削器具を持続的に強く接触させない(フェザータッチ)
 ・ペダルは常時踏んだ状態で形成する(歯質の変性、劣化)
 ・歯肉を傷つけない

次に咬合調整のお話です。
歯は咀嚼などで咬合力の負荷を受けると100ミクロン内外動く。負荷がなくなると変位量の大半は弾性的に戻る。一部は粘性的な変化ですぐには戻らない。戻らないうちに次の負荷を受けると変位はさらに大きくなる。しかし安定状態が続くと血液循環や舌、頬の力で元の位置に戻る。動的に平行が保たれている。患者への噛むことへの支持で注意することは「噛んでください」「カチカチ噛んで下さい」だと強く噛みすぎてかみ合わせがずれる場合があるのでその時は「軽くお口を閉じて下さい」で良い。
塩山先生が行う咬合調整のポイントは
 ・咬合のチェックは咬合紙にただ頼るのではなく、触診による歯の変位や下顎の偏位を観察する。
 ・軽くタッピングさせた時、オトガイに軽く手を添えて一度前方へ出させてから、奥歯で噛む様
   な感じでお口を閉じて小さく閉じたり、開いたりしてください。
 ・強く噛んで、ゆっくり開けてください。
 ・水平位で行った調整の場合、座位での咬合の安定と偏心運動時の違和感がないことを確認する。
そして最後に『補綴治療のゴールはどこですか?』
 ・術者が決めれば 自己満足
 ・患者が決めれば 腑に落ちない満足
 ・術者、患者が満足 やれやれのゴール
 ・患者、術者、第三者 ゴール?
生体が受け入れて 経過良好な状態がゴールに近い状態、ゴールは長く 終わりのないゴール ゴ??ル 一般的には良好な経過が永く続いていることがゴールなのです。
補綴装置には、限界が必ずあることを術者も患者も知っていることがゴールの基本である。補綴治療の満足が続くことがゴールです。そのためにはメインテナンスが必要なのです。




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ランチョンセミナー


講師:川嶋 敏宏先生
(岩手医科大学助教授)

「歯内療法における問題点 ?私の失敗の日々?」




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