過去の学術研修会ー第46回学術研修会講演会事後抄録ー


講師:藤村 朗先生
(岩手医科大学
 解剖学講座
 機能形態学分野 教授)

歯科領域におけるリンパ管の利用

 解剖学の歴史の中で科学的な意味での最初の発見は、諸説はありますが、1623年であると言われています。解剖学において他の臓器の記載が紀元前にまで遡ることを考えますとかなり遅れておりますし、実際に毛細リンパ管の存在、発生にまで言及した研究は1900年前後のことでした。しかも、その後、100年くらいの間はその検証すらほとんど行われず、教科書には今でも100年前の図が紹介されているというのがリンパ管研究の現状です。日本では細々とリンパ管研究を、京都大学を中心としたグループが継続しておりましたが、口腔領域には歯と骨の硬組織が存在することから、研究対象としては不向きであり、ほとんど手を付けられていませんでした。30年くらい前から酵素組織化学染色法や免疫組織化学染色法が急激に発展し、切片上でのリンパ管鑑別が可能となり、様々な領域で検索が行われましたが、口腔領域では硬組織の存在がネックでなかなか進展しませんでした。岩手医科大学解剖学講座機能形態学分野(旧 岩手医科大学歯学部口腔解剖学第一講座)では非脱灰で連続凍結切片作成法を確立し、20年くらい前から口腔領域のリンパ管、特に毛細リンパ管構築の研究を中心に進めてまいりました。今回の学術研修会では今までの研究でわかったことの他に、これらの結果をもとに歯科領域でどういったリンパ管の利用方法があるのかを中心にお話ししました。
 口腔領域における私たちの研究で明らかにすることができているのは、5'-Nase染色による口腔領域の軟組織、特に口腔粘膜下毛細リンパ管構築です。具体的には口腔領域全般、舌、舌癌、頬粘膜、口蓋、歯肉のリンパ管で、形態的に吸収能の検索を行ってきました。また、現在では硬組織についてはクリオシュタットによる凍結切片(川本式フィルムトランスファー法)により、骨の硬さであればほとんど連続で切片作成が可能となっています。
 骨内にはリンパ管は存在しないとされておりますが、下顎骨の下顎管内(実はここは下顎骨の外)にはリンパ管が存在し、下歯槽神経、動・静脈とともにリンパ管は存在します。しかもこのリンパ管はマウスでは歯槽の根尖部にまで侵入していました(Fig.1)。ここで問題となるのは、歯槽内は下顎骨の外か内かです。リンパ管が存在することから外かもしれませんし、歯が存在するのでうちとも言えます。悩ましいところです。
 リンパ節の発生は実は良くわかっていません。胎生18日のマウス胎仔の未熟顎下リンパ節を観察すると、動脈の分岐部に一致してリンパ洞が形成されていました。しかも、門以外のところからの血管の出入りが観察されました。この結果からただちに発生につなげることはできませんが、大きな動脈の分岐位置に何かしらのシグナルがあり、いわゆる所属(領域)リンパ節が形成される可能性を示唆しているものと考えられます(Fig.2)。
 腫瘍の転移は口腔領域の場合、そのほとんどが扁平上皮癌であり、リンパ管経由で起こることが知られています。血管新生阻害薬は脈管系の研究を行っている研究者たちが満を持して発表した薬剤です。この薬剤は血管のみならず、リンパ管の新生をも阻害するため、腫瘍の増殖を抑制するのみならず、転移自体を抑制する可能性が示唆されました。残念ながら、あまり評判は広がりませんでした。
 このような小さな事象を丹念に検索していくうちにリンパ流が温熱により上昇すること、マッサージとの併用でその効果はかなり上昇することが判明し、その結果、温熱歯磨き剤を花王株式会社との共同研究で発売しました。これも残念ながら、現在は販売中止になりましたが。
 それでも懲りずに、現在、抗癌剤の投与経路としてリンパ管を利用する方法を推奨しており、さらに、歯科医師にしかできない、抗癌剤を口腔内に設置するためのステントを入れ歯で代用することを提唱しています。
 また、皮下の毛細リンパ管の構築がサイズの違う2層のリンパ管網を形成していることを解明し、その結果から、むくみや浮腫の治療のための器械の開発にも取り組んでいるところです。
 この度は私の長年の研究成果をご紹介させていただく機会を与えていただき、心より感謝申し上げます。







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講師:清野 和夫先生
( 奥羽大学大学院
 歯学研究科 教授)


生体と調和したパーシャルデンチャーの設計理論と臨床

 口腔の健康に対する国民の意識が高まるにつれ、歯を保存する医療技術や歯の再生医療が盛んに取沙汰されるようになりました。また、日本歯科医師会を中心とした8020 運動の効果もあり、近々の歯科疾患実態調査の結果では、多数歯欠損歯列の割合が減少傾向を示しています。しかし、団塊の世代が65歳に差し掛かった今日、人口に占める多数歯欠損歯列の割合は減少しても、高齢者人口の増加に伴う絶対数は増すことが予想されています。団塊の世代は、「物づくり日本」を支え、日本の高度成長とともに「こだわり」をもって物づくりに励んできた人々です。それだけに、歯科医療に対しても「こだわり」をもって、高度の治療技術を求めていることは明白です。一方で、パーシャルデンチャーによる機能回復は時代の要求に応えているのでしょうか。パーシャルデンチャー装着者の痛い、噛めない、話せないなどの訴えに対して、術者側は十分に応えているのでしょうか。患者の訴えを治療できずに、「義歯とはこんなものだ」と諦めさせてはいないでしょうか。「遊離端欠損歯列はインプラントで補綴を」、という考え方もありますが、すべての患者に適応するものでもなく、従来からの治療技術への要求度が低下することはないと思われます。いま補綴歯科治療に求められているのは国民のニーズに応えることのできる医療レベルであるといえます。その要求は、先人が長年かけて築き上げてきた補綴歯科治療技術を、その理論に沿って確実に実行すれば、必ず叶えられるはずです。人口推計をみても、歯科を受診する高齢者はますます増加することが予測されます。その多くは多数歯欠損歯列か無歯顎の患者です。本研修会では、今一度先人の業績を訪ねて現代のニーズに活かし、生体と調和したパーシャルデンチャーの在り方を考えてみたいと思います。
 パーシャルデンチャーは何故嫌われるのでしょうか?日常の臨床で聞こえてくる一番多い訴えは「痛くて噛めない」ことです。義歯による痛みは、義歯の動揺による床縁の圧迫(図1)、義歯の沈下による骨隆起等への接触、軟組織と義歯の摩擦、神経開口部への義歯床の圧迫および咬傷などにより生じます。次に多いのが、違和感や舌感の不良です。パラタルバーの走行位置や厚さに対して舌感覚が異常に反応することにより生じます。社会的観点からは、クラスプ等の金属が露出して見栄えが悪いことや話しづらいことも嫌われる理由といえます。義歯による発音障害にはいくつかの原因があります。歯が欠損すると、歯を構音点とする音声、例えば「サ、ス、セ、ソ」は正しく発音することが困難になります。また、口蓋がパラタルバーや義歯床で被覆されると、これまでの構音機構が変化し舌が十分に順応できなくなります。そのほか、義歯床と口蓋粘膜の質的違いによる反射機構の障害、異物感による調音運動の妨げなどが発音に支障をきたす原因となります。
 それでは、快適なパーシャルデンチャーを設計するためにはどのような点に留意すればよいのでしょうか。まず、歯科技工所における設計の実態を調査してみました。驚くことに、模型に設計線が記入されているのは20.0%のみで、42.2%は技工指示書に設計図が記入されているのみ、37.8%は技工士にお任せの状況でした。すなわち80%は歯科医師が実際の設計に関与していないことがわかりました。さらに、サベイラインが描記されているのは6%のみで、レスト座やガイドプレーンなどの前処置が施されていないのが42.8%もあり、パーシャルデンチャーの設計が十分に行われていない現状が浮き彫りになりました。
 そこで、設計の基本的な事項について先人の業績を訪ねてみることにします。パーシャルデンチャーの設計で最も重要になるのが義歯の動揺を最小限に抑えることです。咬合力を平均化して伝達するためには義歯は剛体でなければなりません。それには使用する材料の選択のほか、支持、維持、把持と義歯の安定が求められます。少数歯欠損の中間義歯であれば、歯根膜に負担を求めた設計(図2)でよいのですが、遊離端義歯においては支台歯と顎堤粘膜の被圧変位量の差が義歯の動揺に影響します。顎堤粘膜は咀嚼時に0.2~0.3mm、噛みしめ時に0.4mmの被圧変位量なのに対して、歯根膜は水平方向に0.05~0.15mm、垂直方向に0.02~0.06mmの変位量にすぎません(図3)。このため、遊離端義歯では支台歯を保護するために粘膜にも負担を求める設計が求められます。RPIクラスプが適応する所以です(図4)。また、欠損に隣接する支台歯には骨吸収がみられます。例えば、第二小臼歯の歯根長が1/4短くなっただけで、歯根膜の表面積は中切歯よりも少なくなり、側方力に対する抵抗力が弱まります。歯根膜表面積が減少した支台歯は隣在歯と連結固定するか、クラスプで二次的に連結する必要があります(図5)。義歯の動揺は鉤間線の回転軸を中心として義歯床の反対側にスパー、フック等の間接支台装置を設置することで抑制できます(図6)。隣接面板とガイドプレーンは拮抗作用がはたらき把持効果が期待できます。遊離端義歯の動揺はレトロモラーパッドを義歯床で被覆することによっても抑制できます。レトロモラーパッドを被覆しない義歯床は機能力が働くと容易に移動します。義歯床が遠心方向に移動すると支台歯も同方向に移動するので歯周組織に傷害が生じ、歯の動揺が生じるようになります。レトロモラーパッドは義歯床で被覆するようにしましょう。
 パラタルバーの設置位置と厚さは発音に影響します。口蓋の感覚点の少ない第二小臼歯と第一大臼歯の間に、厚さ0.7mm以内のバーを設置すると発音への影響は少なくなります。また、歯列の狭窄は舌の感覚に影響します。上顎では天然歯列よりも片側4mmを超えて狭窄すると発音に支障が現れますが、2週間以内には自己学習により順応します(図7)。義歯装着直後に発音障害を訴えられた場合には、2週間すると回復することを義歯装着時に話しておきましょう。快適なパーシャルデンチャーを装着するために、義歯の動揺を最小限に抑え、咬合力にもたわまない剛体になるように材料の選択、設計に心掛けたいものです。
 最後に、このような機会を与えてくださいました、同窓会会長、学術研修委員会のみなさん、同窓会会員のみなさんに感謝を申し上げます。

















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ランチョンセミナー



講師: 工藤 義之先生
(岩手医科大学歯学部
 歯科保存学講座
 う蝕治療学分野 准教授 )


外傷歯、脱落歯の治療



 ランチョンセミナーの内容をスライドに沿ってご紹介します。
歯の外傷は、齲蝕、歯周病とならんで歯の喪失の三大原因です。今日は、「脱落歯への対応」、「歯根は説への対応」、「歯冠破折への対応」について日本外傷歯学会のガイドラインにそってお話しします。


脱落歯の保存方法
 脱落歯の保存方法はその歯根膜活性をいかに保つかがポイントです。
望ましい順に、
1 その場で脱落窩に戻す
2 牛乳、歯の保存液に浸す
3 生理食塩水に浸す
4 水道水
5 乾燥状態が良くない(1時間で歯根膜は壊死)


脱落歯の再植
1根尖が完成している場合
 1) 歯根膜が壊死した場合(乾燥状態で1時間以上)
   NaF に浸漬してから再植し、6週間固定します。
 2) 歯根膜が生活している場合
   歯根膜は除去せずに再植し、10?14 日間固定
   します。
※1)、2)いずれの場合も10 日後に予防的歯内療法を開始します。

2根尖が未完成の場合
 1) 歯根膜が壊死した場合(乾燥状態で1時間以上)
   再植するエビデンスはありません。
 2) 歯根膜が生活している場合
   歯根膜は除去せずに再植し、10?14 日間固定
   します。
※2)の場合は内部吸収や外部吸収などの不快事項が生じた際に歯内療法を開始します。


再植歯の歯内療法
 根尖完成歯を再植した場合の歯髄生存率はほぼ0%です。歯内療法を行わずに放置すると歯根外部吸収などの不快事項が生じやすくなります。そのため再植後10 日で予防的歯内療法を開始します。その際の貼薬剤は水酸化カルシウムです。
 根尖未完成歯を再植した場合の歯髄生存率は約30%です。歯髄を保存できる可能性があるので予防的歯内療法は行いません。内部吸収や歯根外部吸収などの不快事項が生じた際に歯内療法を速やかに開始します。


再植後の経過観察
 脱落歯を再植した時の経過観察はガイドラインにしっ かり記載されています。
「何かあったらきてくださいは×です。」
経過観察
1、2、3、6、12 か月
その後3?4 年
経過観察事項
・エックス線検査・・・内部吸収、外部吸収
・打診痛、打診音
・動揺
 根尖未完成の場合は上記に追加で
・歯髄診(電気診、温度診の両方)


歯根水平破折
整復したのちに2?3か月間固定します。
経過観察
1、2、3、6、12 か月
経過観察事項
・エックス線検査・・・内部吸収、外部吸収
・打診痛、打診音
・動揺
・歯髄診(電気診、温度診の両方)


歯根水平破折は感染防御がポイントです。

感染が生じてしまった場合
スライド上の図のように破折線の外側に透過像が生じた場合は破折線までの作業長で根管治療をおこないます。

スライド下の図のように根尖に透過像が生じた場合は歯根端(破折した根尖部破折片除去)と逆根管充填を行います。逆根管充填としては、MTA, EBA などが注目されています。


歯冠破折(露髄を伴わない場合)

亀裂や不完全破折は冷水痛を認める時はボンディングシステムを用いてレジンコーティングをします。

エナメル質、象牙質の破折で、破折片があある場合は破折片を接着します。破折片がない場合はコンポジットレ ジン修復を行います。
経過観察
1、3 か月最低でも1年間
経過観察事項
・エックス線検査・・・内部吸収、外部吸収
・打診痛、打診音
・動揺
・歯髄診(電気診、温度診の両方)


歯冠破折(露髄を伴なう場合)
1根尖未完成の場合
 直接覆髄、断髄、部分的断髄
2根尖完成の場合
 1)露髄からおおむね24 時間以内
 →直接覆髄、断髄、部分的断髄
2)24 時間以上
 →抜随
経過観察
1、3 か月最低でも3年間
経過観察事項
・エックス線検査・・・内部吸収、外部吸収
・打診痛、打診音
・動揺
・歯髄診(電気診、温度診の両方)


亜脱臼
軟性食事摂取を患者に説明します。咬合時に痛む時は咬合調整し、経過観察します。
経過観察
歯髄壊死、歯根吸収の兆候が見られたら即座に歯内療法を開始します。
経過観察事項
・エックス線検査・・・内部吸収、外部吸収
・打診痛、打診音
・歯冠色
・歯髄診(電気診、温度診の両方)





徐々に歯冠色が暗く変色した場合の歯髄はスライドのように壊死に陥っていることがおおいです。




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