過去の学術研修会ー第53回学術研修会講演会事後抄録ー


講師:木ノ本 喜史 先生
(大阪府開業、
 大阪大学大学院
 歯学研究科臨床教授)
「明日から役立つ歯内療法のエッセンス -エンドの疑問を解消します-」

 ここ数年、歯内療法を取り巻く状況が熱い。講演会や研修会が多く開催され、雑誌で取り上げられる頻度が増加し、書籍が相次ぎ発刊されている。インプラントの氾濫に対する反動とも言える自分の歯を残したいという願いの高まりや、近年の歯内療法に関する機器の進歩により治療内容が視覚化されたことなどにより、現在のブームとも言える状況が出現したのであろう。歯内療法は、インプラントや矯正などのように専門医あるいは深く学んだ歯科医師だけが行えばよい処置ではなく、一般歯科臨床の基本となる処置である。しかし、この基本が難しいことを多くの歯科医師が感じているだけに困っている方も多いのであろう。
 このような状況において、演者は平成25,26年度の日本歯科医師会生涯研修セミナーの講師を担当した。今回はこの2年分のセミナーの内容を4時間にまとめて紹介した。
 平成25年度分に関しては、歯内療法における感染の機会とその制御法、および感染根管治療の攻略法について解説した。まず、日常行っている診療の中で根管に感染を招いている可能性がある操作を見直した。すなわち、う蝕の取り残しや急性期の根管開放、仮封の不良、汚染物の挿入、歯冠側からの漏洩など、術者が自覚しない間に根管が感染している可能性があるので、その可能性をすべて考慮しながら処置を行うことが重要である。また、根管充填後に長期に処置歯を機能させるにはコロナルリーケージと呼ばれる歯冠側からの漏洩を防止することが大切である。ガッタパーチャポイントとシーラーによる根管充填では根管の封鎖は十分ではなく、支台築造が装着されてはじめて歯内療法が完了したと考えるべきである。
 感染根管治療においては、感染源の多い部位から除去をはじめるのが効率的であると考えるが、それは歯冠側から根尖側へ向かっての順になるので、根管形成の際にも使われる用語であるが、クラウンダウンの考え、つまり歯冠側から根管拡大形成を行うことが、感染根管治療においても有効であることを示した。また、イスムスやフィンに存在する感染源の量は丸々根管を見つけられなかった場合に匹敵する可能性があるので、単にファイルを回して根管を拡げるのが感染根管治療ではないことを理解していただきたい。
 その他、診断に役立つ根管解剖の知識やエックス線診査の要点などについても理解を深めることが大切である。
 平成26年度分については、歯内療法の成功率を確認した後、髄腔開拡、根管の拡大形成から根管充填までを解説した。根管の形態が元の形態を逸脱していて、根尖に病変が存在している場合、感染根管治療の成功率は50%以下であると報告されている。したがって、感染と根管形成の精度が治療成績に影響する。
 適切な髄腔が過不足のない根管拡大形成のために必須であり、髄腔開拡の形態は5つのパターンに分類できることを示した。そして、日常臨床で使用されることが多いステンレス製ファイルの使用法について検討を加えた。ファイルの操作法に関しては、ファイリングは使用せず、Watch-winding motionとQuarter-turn and pull, Balanced force techniqueを取り混ぜた方法を披露した。
 また、歯内療法において最近トピックスとなっている根管洗浄や側方加圧根管充填を確実に達成する方法についても解説を加えた。
 最後に、メタルコアの除去法としての、ダブルドライバーテクニックを紹介した。
 4時間という限られた時間ではあったが、基本から歯内療法を見直すきっかけになったことを期待している。講演だけでは伝えきれない内容については、ヒョーロンパブリシャーズ社から「歯内療法成功への道」というシリーズで書籍を発刊しているので、参考にしていただければ幸いです。今回は講演の機会を与えていただきありがとうございました。

参考文献
・ 歯内療法成功への道 抜髄InitialTreatment
     治癒に導くための歯髄への臨床アプローチ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ヒョーロン,2016年6月
・ 最新 歯内療法の器具・器材と臨床活用テクニック・・・・・・・・・・・日本歯科評論 別冊2015,2015年5月
・ 歯内療法成功への道 偶発症と難症例への対応 病態・メカニズムから考える予防と治療戦略
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ヒョーロン,2014年3月
・ メタルポスト除去のためのダブルドライバー・テクニック(DDT)
     -歯質への侵襲を最小限に考えたポスト除去法-・・・・・・・・・・・・・・・ザ・クインテッセンス,2014年1月
・ 歯内療法成功への道 臨床根管解剖 基本的知識と歯種別の臨床ポイント・・・・・ヒョーロン,2013年6月
・ 歯内療法成功への道 根尖病変 治癒へ向けた戦略を究める・・・・・・・・・・・・・・・・・ヒョーロン,2013年6月



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講師:阿部 晶子 先生
(岩手医科大学
 歯学部口腔医学講座
 予防歯科学分野 准教授)


ランチョンセミナー
「造血幹細胞移植治療を支える口腔ケア」


造血幹細胞移植とは、白血病などの血液疾患に対する治療法の1つで、前処置として、大量の抗がん剤の投与および全身放射線照射治療を行い、がん化した血液細胞を破壊し、その後正常な造血幹細胞を輸注し造血能を再構築する治療法です。造血幹細胞移植中には、前処置の影響で、移植患者さんの白血球(好中球)はほとんど無の状態となり、様々な感染症が発症します。口腔内においても、口腔粘膜炎を中心とした口腔合併症がしばしば発症します(写真①)。

①造血幹細胞移植時発症する口腔合併症
1.口腔粘膜炎 2.口腔乾燥 3.味覚異常 4.知覚過敏様症状 
5.歯性感染症 6.口腔カンジダ症などのその他の粘膜疾患

岩手医科大学附属病院血液・腫瘍内科では、平成16年から多職種からなる造血幹細胞移植チームを立ち上げ、移植治療を行っています。私たち歯科医師、歯科衛生士もチームの一員として移植患者さんに対する早期からの口腔ケアを行っています。移植患者さんに対する口腔合併症の発症予防として、次のようなことに取り組んでいます。

②口腔合併症に対する予防対策
(1)移植前
1.齲蝕・歯周病など口腔内の感染源の確認・治療の実施。
2.専門的口腔ケアを実施し、口腔内細菌のコントロールの実施。
3.移植期間中の口腔内セルフケアの確立。
(2)移植期間中
1.歯科医師・歯科衛生を中心とした医療スタッフおよび患者さん自身による毎日の口腔内の観察の実施。
口腔内の観察は、Oral Assessment Guide :OAG(図1)を用いて行い、その結果は病棟に備え付けの観察記録シートに記入し、医療スタッフ間で共有できるようにする。
2.口腔内乾燥への対策
 口腔内が乾燥状態になったら、含嗽の励行、口腔保湿液の使用を開始し、保湿対策を実施する。
3.クライオセラピーの実施
 化学療法開始前から氷を口に含んでもらい、口腔内を冷却することにより、局所的に血流低下を起こし、抗がん剤の口腔粘膜細胞への到達量を減少させ、粘膜炎の発生を予防する。
4.免疫抑制期における無菌室での口腔ケアの継続

以上のような予防対策を、移植チーム内の医師・看護師・薬剤師等と連携をとりながら行ってきた結果、最近では重度の口腔粘膜炎の発症は減少傾向にあります(図2)。

③移植後の慢性GVHDへの対応
移植後に発症するGVHD(Graft-versus-host disease):移植片対宿主片は、移植片(骨髄・末梢血幹細胞・臍帯血)に含まれるドナーのTリンパ球が、患者の各種臓器を異物として攻撃した結果、発症するもので、口腔内では、移植後100日以上経過したのちに発症する慢性GVHDが多くみられます。口腔内所見は、口腔内の乾燥、粘膜の扁平苔癬様変化などで、重症になると粘膜の糜爛や潰瘍が認められ、会話や食事の際に疼痛が発症し、移植後の患者のQOLの低下につながります(写真②)。慢性GVHDへの対応としては、口腔内の保清に努め、保湿ジェルや保湿含嗽水を使用し、口腔乾燥対策をしっかりと行うことが重要となります。ですから、移植治療を無事に終了した後も、岩手医大歯科医療センターが中心となり、かかりつけ歯科医と連携をとりながら、移植患者の継続的な口腔ケアが重要となります。

 今後も、造血幹細胞移植を受ける患者さんが、安心して、しかも苦痛なく移植治療をうけられるように、移植チームの一員として口腔ケアを通して移植患者さんを支えてゆきたいと思います。



写真① 写真②




図①




図②



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