過去の学術研修会ー第54回学術研修会講演会事後抄録ー


講師:佐藤 厚 先生
(愛知県開業)
『成長期の歯科臨床における主訴になりにくい異常とその対応』
 ―その子に、こんなことが隠れているかも!? ―


キーワード:咬合誘導・萌出障害・埋伏歯の牽引・介入のタイミング・学校歯科健診

【はじめに】
 近年の歯科臨床では、疾患の治療だけでなく、定期健診を通じて口腔の健康維持に貢献することが一般的になってきました。なかでも成長期を扱う小児歯科分野は早くから定期健診を実践してきたといえるでしょう。その定期健診の過程で、本人はもちろん、保護者も気がつかない(主訴がない)成長期特有の異常を発見することがあります。このような異常に対して適切な時期に適切な対応がなされれば、その子どもの将来の口腔環境は著しく変わると考えます。

【主訴になりにくい異常とは】
 当院では、以下の項目に注意して子どもたちを診ています。
1. 乳歯の慢性根尖性歯周炎による後継永久歯の位置異常(無痛性骨膨隆・嚢胞との関連)
2. 第一大臼歯の萌出障害(異所萌出・埋伏)
3. 上顎犬歯の位置異常および埋伏
4. 乳臼歯の骨性癒着(低位乳歯)とその隣接永久歯への影響
5. 大臼歯の頬舌側傾斜(鋏状咬合)
6. 大臼歯の近心傾斜、水平埋伏
7. 埋伏過剰歯、歯牙腫などによる萌出障害
8. 先天性欠損
9. 交叉咬合(とくに乳歯列期)
10. その他 中心結節、軟組織異常、習癖など

 これらの治療は咬合誘導や矯正の一期治療の範囲に入ることになり保険外診療になることがほとんどです。さらに、もともと主訴がないわけですから、それを保護者に分かりやすく伝え、同意を得て治療を始めるにはそれなりの努力が必要と感じます。何より一番望ましいのは、類似症例を提示することですが、そのためには日頃からそれらを直ちに提示できる環境を整えておく必要があります。
 今回の学術研修会では、人口8万人の地方小都市で開業する当院で経験してきた症例の中から時間の許される限り可及的に多くの症例(時間の都合で1?4の項目に限定)を提示し、私の考える咬合誘導・矯正治療についてお話しいたしました。地域の成長期の子どもたちを診る機会の多い学校(園)歯科医の先生方にも再考いただける機会になったのではないかと思います。

【主訴になりにくい異常への対応する場合の注意点】
 このような成長期特有の異常は、治療を開始するにあたり、主訴がないからこそ、説明に時間をかける必要があると思います。具体的には、何がいけないのか? 何もしないとどうなるのか? どのように治療をするのか? どのぐらいの治療期間がかかるのか? すぐ始めないといけないのか? などです。
     また、保護者はまだしも、低学年の子どもたちにとって、介入しても達成感(よくなった!きれいになった!よく咬めるようになったなどの実感)を感じることが少ない治療内容になることがほとんどなので、変化を比較写真等を使って折に触れて説明しながら本人のモチベーションを維持することも必要です。

【症例】
 当日提示した症例は、添付PDFをご覧ください。

【まとめ】
 地域のかかりつけ歯科医が、適切な対応をとることで、重篤な状態に陥ることを避け得る症例が少なからずあります。成長期特有の異常を発見する目を持つことにより、救われる子どもたちが増えると考えます。
 最後に、学術研修会を企画していただいた中野廣一先生ならびに岩手医大歯学樹同窓会学術部の先生方、聴講いただいた先生方に改めて御礼申し上げます。


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講師:岡口 守雄 先生
(東京都開業)


『MTAが可能にした歯髄・歯牙保存の最前線』

抜髄がなくなるMTA臨床
最新の歯髄保存の診断とMTAを用いた術式
見えなかった物が見えてくる、CBCTとマイクロスコープ
感染源を直接見て除去する感染根管治療
根管内を確実に封鎖できるMTA根充

 日常臨床で遭遇する齲蝕や歯髄保存、感染根管治療などにおいて、どのような基準で歯髄を保存し、歯牙を保存しているのであろうか。マイクロスコープが普及してきた現在において、歯髄保存・歯牙保存は従来とは大きく変貌して来ている。
 カリエスが深く、従来の基準では抜髄するしかないと思われるようなケースの歯髄の保存が最新材料MTAの登場により可能になってきました。ただし、MTAは操作性が難しい材料であり正しい術式を理解し用いる事が必要です。
 抜髄必須と思われるケースにおいて、齲蝕を完全に除去し従来の覆髄材を使っても歯髄の保存が困難な事が多々ありました。しかしMTAを覆髄材として用いると、予後良好のまま経過するケースが多く見られるようになりました。これはMTAの封鎖性と修復象牙質の形成能が従来の覆髄材よりはるかに高い事によります。さらに歯髄が一部感染してしまっているケースにおいても、その感染している歯髄のみを可及的に除去し、MTAで覆髄する事で残った歯髄を保存する事すら可能になってきました。しかし直接覆髄にしても間接覆髄にしてもMTAを正しく使用しないと成功は期待できません。歯髄を保存する事は歯牙保存のステップの第一歩です。
 また、従来肉眼で治療をしていた時には治癒が困難であった難治性根尖性歯周炎においても、CBCTによる術前の診断とマイクロスコープで根管内の状態を直接見ることによってなぜ治らないのか、その原因が分かって来ました。さらに複雑で様々な形態をしている3次元的な根管内に残留する感染源を、直接目で見て除去できるインスツルメント「OKマイクロエキスカ」と感染源を除去した後の根管内を確実に封鎖できる新時代の歯科用セメント「MTA」を用いる事で治癒へと導く事が可能になってきました。難治性となっている原因を特定してその原因に直接アプローチする事により、最短で最善の治療結果をもたらすことが出来ると思います。
 これら今までの治療では成し得なかった歯髄保存、歯牙保存の術式はCBCTによる術前の確かな診断と、マイクロスコープを用いた拡大視野下での処置によって初めて成り立つものであると考えています。
 今回、通常の治療では保存が困難であると思われる歯髄の保存や難治症例となっている感染根管治療について、私の数多くの症例とその動画を用いてお話させて頂きました。歯髄保存、歯牙保存の最前線のキーポイントが明日からの臨床にご活用頂ければ幸いです。










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講師:佐々木 大輔 先生
(岩手医科大学歯学部
 歯科保存学講座
 歯周療法学分野 講師)


ランチョンセミナー
『エムドゲイン®商標から新開発トラフェルミンまで』


 「歯周炎」と診断結果が出たら、歯周病治療が開始されます。まずTBI、SRP、咬合調整や悪習癖の除去といった歯周基本治療が行なわれますが、歯周基本治療終了後の再評価で、4mm以上の歯周ポケットが残存した場合、歯周外科治療、特にポケット除去療法に移行します。本日はそのポケット除去療法の中の1つである歯周組織再生療法、その中でも本学術研修会では歯周組織再生材料である「エムドゲイン®」、そして2017年から世界初の歯周組織再生医薬品として保険適応となる「リグロス®」についてお話しさせていただきました。

エムドゲイン®(エナメルマトリックスタンパク質)
 1995年に欧州で承認されたエムドゲイン®ですが、2015年をもちまして発売から20年が経過しました。その間全世界で200万症例に適応され、基礎論文約800本、臨床論文約400本が発表されており、特記すべきはそれだけ多くの症例で行われてきたのにも関わらず、副作用報告は0%、という非常に安全性の高い歯周組織再生材料として長年使用され続けております。
このエムドゲイン®は垂直性骨欠損に対して適応です。特に2壁性、3壁性の骨欠損に対して有用であることが認められています。しかし近年、垂直性骨欠損以外の歯周治療にもエムドゲイン®が使用される例が見受けられる様になりました。結合組織移植術、遊離歯肉移植術、根面被覆術への応用です。特に根面被覆術においては、2015年にAAP(アメリカ歯周病学会)よりconsensus reportが出ており、Millerの分類Class 1、Class 2の根面被覆においては、結合組織移植術が最も効果的ではあるが、エムドゲイン®と歯肉弁歯冠側移動術の併用は、結合組織の代替になりうる、との報告です。つまり軟組織の治癒にもエムドゲイン®は有効であることがわかっております。また近年、エムドゲイン®にはTGF-β様活性やBMP様活性が認められることが複数の論文で報告されています。つまりエムドゲイン®はサイトカインの役目を担っている、とも言えます。
現在の再生療法はLangerらが唱えたTissue Engineering(組織工学)に基づいています。すなわち組織そのものを再生するstem cell(幹細胞)、その未分化な幹細胞を目的とする組織へと分化させるサイトカイン、再生する組織が必要とするスペース確保また幹細胞が遊走する場を提供するscaffold(足場)、この3つの要素がいずれも過不足なく融合した場合、目的とする組織あるいは臓器の再生が促されるというコンセプトです。歯周組織再生も例外ではありません。現在はこのコンセプトに則り、サイトカインとしてのエムドゲイン®の活用が盛んに行われおり、エムドゲインに足場材料を組み合わせた併用療法が基礎研究および臨床研究の双方において盛んに行われています。








リグロス®(トラフェルミン)
 商品名「リグロス®」として2017年4月から、世界初の歯周組織再生医薬品として保険適応となる薬剤です。主成分はサイトカインの1つである「FGF-2」であり、医科ではこのFGF-2を主成分とした薬剤、商品名フィブラストスプレーとして褥瘡または火傷の治療薬として2002年から臨床の場で使用されています。このサイトカインの1つであるFGF-2は、未分化な細胞を未分化なまま増殖させる機能、そして栄養源として必須である新生血管の増殖、という2大作用を有したサイトカインです。その効果は下記のグラフにも示されていますが、歯周組織再生医薬品として有用な結果が報告されています。
 今後は組織工学に基づいて、サイトカインであるリグロス®に足場材料を組み合わせた併用療法が基礎研究および臨床研究の双方において研究されることで、リグロス®に最も適した足場材料を発見、もしくは開発されるものと思われます。またリグロス®の主成分であるFGF-2とは異なったサイトカインとリグロス®を組み合わせることで、さらなる効果的な歯周組織再生療法が誕生することを期待しております。










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