過去の学術研修会ー第62回学術研修会講演会事後抄録ー


講師:野坂 久美子 先生
(岩手医科大学歯学部
   小児歯科学講座
   元助教授)
■午前の部

「小児歯科治療のスキルアップ」

1.痛くなくて良く効く局所麻酔
2.最近見受けられる幼若永久歯齲蝕の所見


   最近、齲蝕は減少傾向にあるといわれ、小児の口腔に関する関心は、もっぱら、歯列不正にあると思われます。しかし、歯列不正を含め、齲蝕は種々の口腔内疾患の最大元凶ではないかと思います。盛岡市における齲蝕有病者率を見ても、平成22ー26年の間でそれぞれの年齢間では減少傾向にあるものの、3歳から5歳までの齲蝕上昇率はわずか2年間で約2倍にも達し、5歳児で半数弱の子供たちが虫歯に罹患しています。齲蝕の原因について、Keysは3つの輪、すなわち、個体(歯)、微生物、食物を挙げていますが、その後、時間が加わり、4つの輪になっています。その中で食物(甘味飲料)によるものが最も大きいと思われます。1ー2歳の低年齢児は夜間の哺乳(母乳)による上顎乳中切歯の平滑面、また、野菜ジュース常飲による下顎乳中切歯の脱灰を認めた症例もあります。エナメル質の臨界pHは4.5ー5.5ですので、このpHでエナメル質は溶解されます。砂糖水でうがいすると、うがい後2ー4分でpHは5付近まで下がり、それが20分も続く(ステファンカーブ)と云われています。さらに、身近な市販飲料、柑橘類などはpH5.5以下のものがほとんどです。とくに、歯は石灰化が未完成の状態で萌出してきます。また、乳歯は、歯質が薄い、酸に対して溶けやすい、歯頸部と隣接面は低石灰化帯で、石灰化不良の部位でもあると云われております。乳歯列の時に、齲蝕誘発の環境要因が加われば、齲蝕はまたたくまに拡大します。乳歯の齲蝕発生の時期はいつかと云いますと、咀嚼中枢の発達時期、一般的には第一乳臼歯の萌出時期(1歳頃)です。齲蝕部位は上顎乳中切歯の近心隣接面で歯間空隙のない症例に多いです。しかし、最近は、甘味飲料以外に栄養補充としての飲み物の摂取が見受けられ、齲蝕抵抗性のある下顎乳中切歯にも齲蝕が認められます。さらに、咀嚼が行われないために、唾液の分泌が少なく、舌背には舌苔が付着しています。齲蝕の発生が1歳以前から認められることを考えると、齲蝕発生のみならず、咀嚼の重要性などから、1歳前からの(生後8か月頃には)歯科検診の重要性が理解されると思います。3歳前後になると、齲蝕発生は咬合面よりもむしろ乳臼歯隣接面に移行してきています。その理由に次のことが考えられます。最近の子供たちの歯列は歯間空隙が少ないだけでなく接触力も強いです。さらに、1.面接触で自浄作用が行われにくい、2.隣接面の歯質が薄い、3.第一乳臼歯遠心と第二乳臼歯近心の辺縁隆線の高さに段差があること、4.石灰化不良部位が隣接面に現れやすいとも云われていることです。その上、子供は齲蝕が大きくなっても、疼痛をなかなか訴えません。具体的にいいますと、乳切歯では、切縁部の歯質の厚さは萌出後第二象牙質の添加により厚さを増しますが、隣接面はほとんど変化がなく、とくに齲蝕の発生が多い近心隣接面は1.4mm位です。齲蝕病巣の除去時、深い齲蝕では、非感染の軟化象牙質を残留させる間接的覆髄法をすすめることもあります。乳切歯の切縁部は歯根が形成されるに従って厚くなりますが、隣接面の歯質の厚さには加齢的に変化が少ないです。隣接面の歯質の厚さに変化が見えてくるのは4歳頃からです。それは、慢性齲蝕の時、齲蝕部位の髄室内に三次象牙質の形成が認められる時です。従って、切歯部の隣接面齲蝕の処置では、とくに4歳以下では、手用機械による軟化象牙質の除去ならびに暫間的間接覆髄法を勧めます。一方、乳歯は、修復後感染根管へ移行しやすいです。その好発歯は上下顎第一乳臼歯です。その理由の1つは脱落近い歯冠のみになっても、髄室角が尖ったままであることです。修復処置において歯髄と窩底下との距離の安全域は0.5 mmと云われています。最近、乳歯における深い齲蝕で覆髄無しのCR充塡で歯髄壊死を誘発する症例が多々見られます。エナメル象牙質境付近の齲蝕でなければ、小児の齲蝕は軟化象牙質除去後、三次象牙質を形成しやすいセメントでいわゆるカリエスコントロールを行い、最低1週間位何ら症状の出ないことを確認してから、修復処置を行うことを勧めます。窩洞は、それぞれの乳歯の中央窩で約1.5 mm、側室は0.7 mm位での形成が安全域1mmを保つことが出来ると思います。では、乳歯の齲蝕処置に局所麻酔の使用はどうでしょうか。深い齲窩には必要かもしれません。しかし、エナメル質の切削に麻酔は必要なく軟化象牙質の除去には手用器械を併用すること、乳歯歯髄の神経分布の特徴などから、使用頻度は少ないです。局所麻酔は断髄や抜髄はもちろん抜歯などの時です。賛否両論はありますが、やはり、ショックテストを行い、その判定結果で行っております。一方、齲蝕処置の時、フッ化ジアミン銀を使用することがあります。説明書にもありますが、深い齲窩に使用すると、急性歯髄炎を起こすことがあるので、十分注意が必要です。

幼若永久歯は乳歯と同様に髄室角が非常に突出し、歯質が軟らかいために、切削中に露髄あるいは不顕性露髄を呈することがあります。また、咬合面などで小さい齲窩を認めますが、内部で掘削性に拡大した大きな齲蝕を認めることもあります。いわゆる表層下脱灰です。萌出したての乳歯と同様に石灰化が不完全ですので、齲蝕処置では深い齲蝕に対する覆髄とカリエスコントロールの重要性を強調します。

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「② う触」はこちら


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講師:田邉 憲昌 先生
(岩手医科大学歯学部
補綴・インプラント学講座
補綴・インプラント学分野
講師)


■昼の部

スキルアップ Cr・Brの装着「補綴マテリアルの特性を考えた調整と接着」


はじめに
   かつて、歯冠補綴に用いるマテリアルとしては、金属を用いたものが中心であったが、近年の金属価格の高騰や金属アレルギーの問題などからメタルフリーの修復へと変化してきている。支台築造ではメタルコアからファイバーポスト併用のレジンコアへ、保険診療の歯冠補綴ではでは全部金属冠、レジン前装冠からレジンCAD/CAM冠へ、私費では陶材焼付冠からジルコニアを中心としたセラミック補綴へと大きくシフトしてきている。
   このことは、従来行ってきた補綴臨床における様々な材料やそれに伴う臨床の手技にも変化をもたらしており、今回、ここ数年で大きく使用頻度が増加してきているハイブリッドレジンによるCAD/CAM冠とフルジルコニアクラウンについて解説を行った。

1)レジンCAD/CAM冠の調整と装着
レジンCAD/CAM冠は2014年の小臼歯部への保険導入をはじめとして、現在、下顎第一大臼歯まで保険での適応が拡大されてきている。今後、上顎大臼歯などへのさらなる拡大も考えられる。レジンCAD/CAM冠の臨床を成功させるにはいくつかポイントがあるので注意が必要である。

●   適応症の判断
保持力を得るために十分な歯冠高径があり, 対合歯との適切なクリアランスが確保できる症例を選ぶこと。また、グルーブやホールなど補助的保持形態が必要ないものでなければならない。

●   支台歯形成
支台歯に鋭角な部分があると適合不良となるので、丸みを帯びた形状にする必要がある。最近では専用のプレパレーションキットも販売されている。金属と比較してクリアランスも十分ないと破折の原因となりやすい。

●   咬合調整と研磨
咬合調整の方法は全部金属冠に準じて行うが、通常のレジンよりもフィラーを多く含有しているため、陶材研磨と同様にダイヤモンドを含有した研磨剤を用いて行うべきである。

●   装着
CAD/CAM冠の装着にはレジンセメントを用いる。クラウンの接着の阻害因子としては唾液が大きく関与し、そのため重要なのはクラウンの内面の前処理である。サンドブラストを弱圧で行い、その後、リン酸で洗浄を行う。サンドブラストは強圧ではクラウン内面にクラック等を発生する可能性があり、弱く行う必要がある。また、サンドブラストがない場合はリン酸洗浄のみでもある程度の効果は認められる。その後の処理としてはシランカップリング剤を含んだプライマーを塗布する。

2)フルジルコニアクラウンの調整と装着
ジルコニアを用いたオールセラミッククラウンの製作法について、かつてはコーピング型の2層構造のジルコニアコーピングにガラスセラミックを積層した構造のものが主流であったが、チッピングなどのトラブルが多く発生し、現在は歯冠形態すべてをCAD/CAMで作成するクラウン型のもの(フルジルコニアクラウン)が増えてきている。特に大臼歯部においては第一選択と言っても過言ではない。今回、フルジルコニアクラウンの特徴と装着手技を解説する。

●   適応症の判断
現在、従来型のジルコニアに加えて、透過性を高めたジルコニアも出てきており、適応は広がっている。従来型のものは大臼歯に主に使用が望まれるが、透過性の高いものは従来のガラスセラミックに近い審美性も確保できるものも出てきている。また、レジンCAD/CAM冠と違い、ブリッジも製作できるが、金属とは異なり曲げ強度が弱い(耐力に欠ける)ため、設計を誤ると破折するリスクも伴う。

●   支台歯形成
従来のセラミックではディープシャンファーのような厚みを持った形成が必要であったが、従来型の高強度ジルコニアを用いれば、金属冠同様にナイフエッジやライトシャンファー形態でも適応可能である。ジルコニアはCAD/CAMでしか製作できないため、レジンCAD/CAM冠同様に角のない形成を心がける。

●   咬合調整と研磨
削り出したままのジルコニアは表面が粗く、そのままでは対合歯の摩耗を引き起こす。しかし、よく研磨されたジルコニアは対合歯を摩耗させるリスクは低いことが明らかとなっており、よく研磨することが必要である。

  ●   装着
レジンCAD/CAM冠同様にレジンセメントで接着を行う。強度が高いことから、サンドブラストは強圧で行って問題はない。リン酸洗浄は接着阻害となるので使用しない。接着性モノマーとしてMDPが有効である。近年ではシラン処理やメタルプライマーの効果も含んだマルチパーパスプライマーが製品化されている。

最後に
金属のコストの問題のみならず、金属アレルギーのリスクも考えると、メタルフリー修復は今後さらに需要が高まると考えられ、その有効な使用法や支台歯形成を含めた基本的な手技を今後歯科医師のスキルとして取り込んでいく必要性は高いと思われる。


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講師:藤本 淳 先生
(盛岡市開業
   岩手医科大学歯学部
      臨床教授
   南カリフォルニア大学
      客員研究員)


■午後の部1

スキルアップ歯周病治療「予後良好に導くための歯周基本治療」


今回の講演では、臨床に携わり始めた先生がた向けに、歯周病の病因論そして歯周基本治療におけるデブライドメントの考え方について、エビデンスを整理ながらお話させて頂きました。

●   歯周病の病因論について
歯周病の発症にはプラークによる歯肉炎が入り口となっています。多くの人は歯肉炎になってもリスクファクターや感受性が高くなければ歯周炎に進展しないと考えられています1, 2, 3) 。さらに歯周炎の進行にはプラークや生活習慣だけではなく、患者固有の感受性が関わっていることが示唆されています4) 。歯周炎の発症や進行には図のように様々な因子が関与しています。これらを問診や検査をしっかり行い、リスクコントロールを行っていくことが大切です。

●   プラークコントロールの重要性について
歯周病の病因を考えた時、プラークは歯周炎の入り口と言えます。プラークの形成と熟成によりLPSが放出され病原性が強くなります。歯周ポケットの発生にはLPSが関与しており5)、歯周ポケットが浅いうちから縁上のプラークコントロールが大切です。

●   デブライドメントについて
歯周基本治療においてスケーリング・ルートプレーニングと聞くとどのような治療イメージを持たれるでしょうか。歯根面を滑沢にツルツルに仕上げるイメージの強い方が多いかと思います。それではオーバートリートメントとなり長期的に見ていくと、根面が削られ、知覚過敏や歯肉退縮など歯周組織への為害性が発現してしまいます。そこでバイオフィルムを除去破壊し、セメント質を保存するために考えられた穏やかなインスツルメンテーション方式がデブライドメントです。
デブライドメントだけではアンダーインスツルメンテーションの傾向がでてしまいます。歯周組織の安定のためには、歯周組織の状況を見極め、除去する対象物を明確にしてスケーリング・ルートプレーニング(SRP)と上手に使い分けていくことが大切です。
手用スケーラーと超音波スケーラーによる歯根表面の損失は、キュレット型スケーラーで108.9μm、超音波スケーラーで11.6μmというデータがあります6)。手用スケーラーに関するセミナーや著書は多数ありますが、本講演では超音波スケーラーに着目し、普段の臨床応用に必要な知識と基本的な技術について説明しました。
超音波スケーラーの歯根面への影響を歯根面に対する角度、パワー設定、側方圧、スケーラーの太さの条件をそれぞれ組み合わせて調査した研究があります7, 8)。その結果から超音波スケーラーを歯根面に対して15度以内に当てること、デブライドメントには弱いパワー設定、弱い側方圧そして細いスケーラーの使用が基本となり、付着物の状況に応じて条件を変えることで対応していきます。
歯周病の起因物質である菌体外毒素(LPS)の99%は歯根表面に存在し、セメント質にはほとんど侵入していないため容易に除去可能です9)。 正しいデブライドメントにより生体が受け入れられる歯根面を目指していきます。解剖学的形態を考慮し、他の病因の把握と改善も必要ですが、その第1歩となる細菌性の要因を取り除くことは、歯周炎を改善し、維持安定を図るために大きな役割を果たすと考えています。

最後に歯周治療の成功のためには、病因を把握し正しい診断をするための資料採取が重要です。それらを基に考えた生活習慣を含めた口腔衛生指導と、除去の対象物を明確にしたデブライドメントやSRPを行うことが大切です。
今回の講演が卒後間もない先生方の臨床のヒントになりましたら幸いです。

1) Löe H. et al. Experimental gingivitis in man. J Periodontol 1965 : 36 : 177-187
2) Page.R.C. et al. The pathogenesis of human periodontitis : an introduction. Periodontol 2000 1997 : 14 : 9-11
3)Kornman KS. Mapping of pathogenesis of periodontitis : a new look. J Periodontol 2008 : 79 : 1560-1568
4) Löe H. et al. Natural history of periodontal disease in man. Rapid, moderate and no loss of attachment in Sri Lankan laborers 14 to 46 years of age. J Clin Periodontol 1986 : 13 : 431-445
5)吉永泰周ら ミニレビュー 歯周ポケット形成の初発機序を考える 日歯周誌 55(3) : 2013 : 256-261
6)L Ritz et al. An in vitro investigation on the loss of root substance in scaling with various instruments. J Clin Periodontol 1991; 18: 643-647
7)Flemmig T. F. et al. The effect of working parameters on root substance removal using a piezoelectric ultrasonic scaler in vitro. J Clin Periodontol 1998; 25: 158-163
8)Flemmig T. F. et al. Working parameters of a Magnetostrictive Ultrasonic Scaler Influencing Root Substance Removal In Vitro. J Periodontol 1998; 69: 547-553
9)J. Moore et al. The distribution of bacterial lipopolysaccharide (endotoxin) in relation to periodontally involved root surfaces. J Clin Periodontol 1986; 13: 748-751





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講師:佐藤 和朗 先生
(岩手医科大学歯学部
   口腔保健育成学講座
   歯科矯正学分野教授)


■午後の部2

スキルアップ矯正歯科治療 矯正歯科治療 やって良いこと悪いこと


【はじめに】
   現在我が国は「少子高齢社会」であり、高齢者に係わる医療問題が大きくクローズアップされております。平成29年に出された第4回歯科医師の資質向上等に関する検討会の資料では、歯科診療所の外来受療率は、若年者から青年期での受診は低いが中高年で増加していき、65~74歳をピークに低下すること、歯科疾患は、齲蝕は1~4歳、歯肉炎および歯周疾患と歯の補綴は65~69歳がピークであることが報告され、同時に高齢者の歯科診療を形態回復の治療から機能回復の治療へシフトさせていくという方向性が示されました。今一度、子供達の置かれている状況に目を向けると、近年の学校保健統計調査では、永久歯の一人当たりの平均齲蝕歯数は1歯未満までに改善されてきているとの報告がある一方で、各年齢で4?5%子供達が歯列・咬合についての問題を指摘されています。また歯科疾患実態調査では12~15歳で叢生のある者は、40%以上にも昇ることが指摘されております。この事を併せ考えると、成長発達期にいる子供達は、齲蝕以外の理由で歯科受診することが少なく、不正咬合やその増悪因子が見過ごされている可能性があります。成長発達期の子供達の歯科受診の減少は、口腔に問題がないとは一概に言えないところもあり、見逃してはいけない不成咬合や増悪因子への対処法、逆に安易に治療を行ってはいけない不正咬合について解説したいと思います。

【口腔機能発達不全症について】
   平成30年に日本歯科医学会より「口腔機能発達不全症に関する基本的な考え方」という指針が発表されました。オーラルフレイルなどによる高齢者の口腔機能低下症に対して、 小児期の口腔機能は常に、機能の発達・獲得の過程にあり、各成長のステージにおいて正常な状態も変化し、機能の発達が遅れていたり誤った機能の獲得があればその修正回復を早い段階で行うことが重要であるとのことから、患者には自覚症状があまりなく、咀嚼や嚥下がうまくできない、構音の異常、口呼吸などが認められ、口腔機能の定型発達において個人因子あるいは環境因子に専門的関与が必要な状態を早期に発見し、改善処置を行うというものです。これらの口腔機能の異常の多くを放置した場合、不正咬合という形態的不全を引き起こす大きな原因と考えられます。1歳児の歯科健康診査から始まり、学校歯科健康診断で高校卒業までは、年に1度は歯科検診が行われていますが、齲蝕の早期発見と歯科の受診勧告を中心とした検診に加え、今後は舌、口唇、小帯、扁桃などの軟組織の審査や、可能であれば発音、呼吸の審査まで行えるものにする必要があると考えられます。

症例:小学校低学年で舌突出を認めた前歯部開咬。発音、嚥下、口唇閉鎖の改善が困難であり、中学時の永久歯列においても前歯部開咬は残存した。

【上顎犬歯の萌出異常について】
   学校歯科健康診断では視診が中心となるため、口腔内に現れている病状のみが発見できることが問題になることがあります。口腔内審査を行う時期にもよりますが、歯の先天欠如や過剰歯の問題、または乳歯列から永久歯列に交換していく時期に生じる歯の萌出異常などの問題は、学校歯科健康診断や日常の診療において見逃す可能性があります。これは病状がなければ検査ができない保険診療上のルールにおいて、小児のパノラマエックス線撮影が限定されることが大きな理由であると思われます。特に私どもの診療科では、全患者数の約8%にあたる患者が、永久歯の萌出異常を伴う不正咬合患者の状況です。特に小学校中学年から高学年にかけて萌出する「上顎犬歯」の萌出異常が多く、発見が遅くなった場合には、中切歯や側切歯の歯根吸収、ひいては前歯の抜歯を判断する状況になることもあります。自覚症状もない点、顎骨内での位置異常であることから発見が遅くなることが多く、矯正歯科医の立場からは就学時のころにパノラマエックス線検査を実施する事で、早期発見に繋がると考えています。

症例:11歳男児。口腔内審査では著しい不正咬合は認めず、齲蝕罹患歯はない。
パノラマエックス線写真で上顎両側犬歯の萌出異常が確認できる。すでに側切歯に軽度の歯根吸収が生じている。

【不正咬合の早期治療について】
   乳歯列期の反対咬合や口腔習癖による開咬、永久歯交換期に見られる前歯部叢生などに関しては、保護者の方も目に見える不正のため、早期に歯科受診し、相談されるケースは多いと思われます。前述した口腔機能発達不全に起因する不正咬合への対応は、「口腔筋機能療法:myofunctional therapy」による口腔訓練が有効であると考えられます。一方、永久前歯部の叢生などは、「歯と歯槽部の不調和:Arch length discrepancy (ALD)」が原因であり、arch length discrepancy解消には、歯列弓の拡大、大臼歯の遠心移動、抜歯、IPR(ストリッピング、ディスキング)等が考えられますが、基本的には歯槽基底の大きさを増大することは困難であること、歯列弓の拡大にも限界があることを認識し、過度な拡大による非抜歯治療に拘ることは推奨できません。ALDが?5mm以下(永久歯の萌出スペースがかなり不足している)であれば歯列の拡大だけでは対応できないことは、再度確認しておくべき事項です。また不正咬合の鑑別は非常に重要で、特に骨格型要因のコントロールは難しく、中途半端な治療は禁物です。一旦不正咬合が改善しても、成長発育の段階で再度症状が悪化することも多く、長期の治療や外科的矯正治療の対象になることもあります。成長発育期にある患者の不正咬合は、現症にばかりとらわれず、家族歴や既往歴も十分に審査することで、不正咬合を引き起こす要因分析、即ち骨格型、機能型、discrepancy型、個々の歯の要因を明らかにすることが重要であると言えます。

症例:乳歯列期の骨格型切端咬合。混合歯列期において正常被蓋へと変化しているが、思春期成長期に予後不良の反対咬合へ変化している。


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