岩手医科大学
歯学部同窓会

第37回(平成22年2月7日)

「なぜ、力のコントロールが必要か?」

永田 和裕先生
永田 和裕 先生

講師:永田 和裕先生
(日本歯科大学 新潟生命歯学部 総合診療科 あごの関節外来医長)

力のコントロールとは?

意義

正常な歯列、顎機能の回復と獲得。
DCSの予防、治療。

方法

ブラキシズムを含めた、口腔筋機能以上の改善、および修正。
動的な咬合均等化。
咀嚼系に生ずる過剰な力は歯、口腔周囲組織へ種々の障害を生じる。
・TMD
・硬組織や補綴物の疲労現象やトラブル
  Abfraction Occlusion
  Stressed Fillingなどの修復物の特徴
・周囲組織の破壊。
実際には
残存歯への影響、楔状欠損、知覚過敏。
Crへの影響、歯頸部の欠損、咬合面の磨耗。
PD、インプラントへの影響。
義歯への影響。
臼歯の破折。
前歯部の破折
についての説明。
長期経過症例をみると、歯周病の管理は比較的良好である。装着時にはきちんとした咬合調整を行っているにもかかわらす.トラブルが継続する患者さんがいる。

力のコントロールの意義。

咀嚼系に生じる過剰な(不正な)力は歯、口腔、周囲組織への種々の障害を生じる。従って予防、予後を重視した歯科臨床では歯周病などの炎症のコントロールと同様に力のコントロールを考慮する必要がある。
スプリントでブラキシズムは軽減するのか?
あまり効果は感じられないと思う。
では認知行動療法で良いのか?
ほとんどすべての研究で有効と判断されている。
総合的力のコントロール法
・ブラキシズムコントロール
  認知行動療法
  イメージトレーニング
  薬物療法
・咬合管理
・習慣指導
の3つを行う。

ブラキシズムとは、咀嚼筋群に何らかの理由で異常に緊張し機能的な運動とは関係無く、非機能的に上下の歯を無意識にこすりあわせたり、くいしばったり、連続的にカチカチ合わせる習癖。軽度のものは多くの正常者にも存在する。咀嚼系に特有の現象で時として自傷的な作用を引き起こす。
ブラキシズムの種類には、グラインディング(はぎしり)クレンチング(くいしばり)タッピング(かちかち)がある。
ブラキシズムのタイプには、習癖、生活習慣、ストレス型と神経内科型と薬物誘発型の3つのタイプがある。
ブラキシズムは認知行動療法、習癖指導、薬物療法の中枢性の対応とスプリント、咬合調整、歯冠修復など末梢性の対応がある。
今までの治療はほとんど末梢性の治療がメインで本来大切な中枢性の治療があまりなされていないと思われる。
ブラキシズムイコール障害ではない。ブラキシズムが障害に関与すると予想される場合にはじめて対処が必要となる。ブラキシズムの有無だけではなく、障害との関連とを予測する必要があり、具体的にはブラキシズムに起因する障害の兆候に注意する。例えば、補綴物や天然歯の顕著なファセットや知覚過敏、咬合違和感、Abfrction、局所的な垂直性骨欠損、歯の動揺度の増加。

ブラキシズムと薬物、薬剤について

筋緊張を緩和する薬剤

歯科適応(顎関節症、歯ぎしり病名で可能)
・中枢性弛緩薬
  ムスカルム、ミオナール、リンラキサー
・マイナートランキライザー
  デパス
・テンカン治療薬
  テグレトール

筋緊張を高める可能性のある薬剤

カフェイン、アルコールの過剰摂取。坑うつ薬、SSRIの投与(ルボックス、デプロメール、パキシル)。坑精神薬の継続投与。
筋弛緩剤の集中投与裏技
筋弛緩剤の一日量を就寝時に一括投与(デパスはだめ)その際複数の筋弛緩剤を併用。1クール3週間程度、3クール。治りにくい関節症の80パーセント近くが改善。

薬物療法のまとめ

ブラキシズムや過剰な咀嚼筋緊張と脳内物質、薬剤が関与する場合があると考えられる。これらの症例は総称して、神経内科的ブラキシズムとして対処する。
強いブラキシズムを認める患者さんの特徴的な咀嚼習慣は、噛む力が強い、食事の時間が短い、咀嚼回数が少ない 、早く飲み込む 。そして特徴的な咀嚼パターンの存在があり、咀嚼時over shootなる、歯および咀嚼系への負担過重がある。

力のコントロールにおける咬合管理の意義と方法

意義

咀嚼系に加わる負担過重を分散均等化する。
過剰な力そのものを軽減する効果は無い。だから力のパッシブコントロールと言われる。
咬合治療における負担過重の分散方法
中心咬合位における均等な接触、側方運動時の咬合様式の設定。
ブラキシズム時の顎運動はどうなっているのだろうか?
(フューズⅢ運動解析)
ブラキシズムの定量的研究において評価されるのは筋活動のみである。
ブラキシズムの運動の直接的評価は不可能である。
間接的評価としてクレンチング時垂直的運動解析(DCP)
DCPとは。 動的な顆頭位つまり咬頭篏合位で負荷を加えない状態での静的な顆頭位と対となる用語。実際には最大噛みしめをおこなった場合の微少な顆頭の移動を示している。強いブラキシズムを想定した評価。講演ではいろいろな症例におけるDCPの解析と臨床的な意義を説明。
咬合紙の厚み(30μm)と比較して非常に大きな沈下が生ずる場合がある。
スリーブブラキシズム時は最大噛みしめより数倍大きな力を生じ生理的限界を超える沈下が生じる可能性がある。
咀嚼筋に近接した後方臼歯で障害が生じる可能性が高い。
咬合器では審査、再現できない。
DCPの対処は力のコントロールを目的とした咬合管理において最も重要な因子と考えられる。
ブラキシズムを想定したCOにおける動的均等化それは強い沈下が生じたときに均等に分散されるような咬合を与える。
新たに付与するガイダンスがブラキシズム症例に有効か?
機能的顎運動は中枢、歯、顎関節、筋の統合によってコントロールされている。側方運動は歯のみでコントロールされているわけではない。ブラキシズムパターンの咬合による変更は困難であり、修復で変更しても後戻りが生ずる。ブラキシズムパターン等を予測しパターンに合わせて分散化を図る。ゆえに咬合管理はパッシブコントロールと言われる。

ブラキシズムとスプリント

ブラキシズムが中枢性の因子によって発生するならスプリントによるブラキシズム軽減の効果は期待できない。スプリントの適応例として、多数歯の動揺を認める場合。薬物の使用が困難な場合。
どのようなスプリントを使用するかというと、ブラキシズムコントローラを付与し、後方、側方運動を確実に抑制する。
ブラキシズムそのものを軽減する効果は不明でブラキシズムによる障害の防止を目的とする。ギブス、サポーターの役割。

DCS症例の咬合診査の特徴について

力のコントロールで特に必要とされる診査は局所に生ずる強い負担過重の推定。特に臼歯部で注意する。強い負担過重の評価方法は誘導歯の磨耗、ファセッとの確認、アブフラクションの発生、レントゲン上での垂直性の骨吸収など基本的にブラキシズムの診査と同じものだが、必ずしも現在の状況を示しているとは言えない。
負担過重によって引き起こされる動揺度の増加、知覚過敏、違和感などの局所障害を同時に評価する必要がある。
特異的な評価として、後方臼歯のファセット、微小フレミタス検査、不顯性歯痛の確認があげられる。
フレミタスとは歯周病学的には患者自身の咬合力によってひきおこされる歯の動き。フレミタスは局在する力の大きさや方向を推定することが可能であり、ブラキシズム運動をシュミレートすることが可能であり、咬合調整の必要性や効果を短時間かつリアルタイムで評価することが可能であり、歯周組織の状態を同時に評価することが可能である。
診査のポイントとして、被験者に負荷状態を想定した顎運動をおこなわせる。ハードタッピング、作業側側方位でのタッピング、側方グラインディング。側方グラインディングは左右に連続しておこなわず、中心咬合位から一定の方向へ運動量を変えて繰り返し行う。
歯列に指を強めに押し当て力の加わる歯と方向を確認する。指を歯根膜受容器の代わりに使う。咬合紙は定性的に使用するため一般的な厚さのもので十分である。

不顯性歯痛について

打診によって確認される歯の痛みや違和感を言い、下顎の後方臼歯で発生し強いブラキシズムによって発生すると考えられる。クレンチング要素が強い場合は明確なファセットを生成しない場合もある。直りにくい顎関節症や歯痛と関連する場合がある。
咬合診査については実際ステージ上で被験者相手におこないながらレクチャーを行った。
咬合調整は触診で確認できるフレミタスが消失あるいは均等化するまで調整する。
強いブラキシズムや後方歯の咬合性外傷が予想される場合は最後方歯の接触を弱める。結果的に軽いタッピング時では後方歯が接触しない場合もある。極端なデスクルージョンとはせず、接触させない場合でも300μm程度の離開とする。
障害の予測されるブラキシズムを認めたらまずブラキシズムの軽減。ブラキシズムコントロール+咀嚼指導。必要に応じて生活習慣の指導。後方歯の強いファセット、不顯性歯痛、知覚過敏、垂直性骨欠損を認める場合は状況を見て早期の咬合調整。症状が軽減、消失しない場合、薬物療法、ブラキシズム対応スプリントの適応

(学術研修部会 22期 白倉義之・記)

永田 和裕先生