岩手医科大学
歯学部同窓会

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第44回(平成25年5月26日)

根分岐部病変の歯周治療

重柏 隆先生
重柏 隆 先生

講師:八重柏 隆先生
(岩手医科大学歯学部 歯科保存学講座 歯周療法学分野 教授 )

 私は岩手医科大学歯学部15期卒で、卒業して既に約30年経過しました。昭和60年に第二保存の大学院(当時の教授は現名誉教授の上野和之先生、講座は歯科保存学第二講座歯周病学教室)に入学し、上野先生から歯周外科の醍醐味をはじめ、人としてあるべき姿まで、何から何まで懇切丁寧にご指導いただきました。これまで実に多くのいろいろなことがありましたが、現在の私が大学で現職にあるのは、上野先生をはじめ、数多くの先生による温かいご支援、ご指導のお陰です。この場を借りて御礼申し上げます。
 歯周病患者さんの治療計画について相談を受けることが多くあります。その大部分は、1本ないし数本の歯の保存の可否判断ですが、ついつい歯周病の進行した特定の歯のみにとらわれがちです。歯周病は1歯に限定していることはむしろ希です。歯周病は自覚症状がないので、患者さんも治療を担当する歯科医師も気がつかないままに口腔全体に進行している場合が少なくありません。木(1本ずつの歯)のみを見て森(一口腔)全体を見ないのはよくありません。勿論、森(一口腔)全体を見たつもりで、実際には木(1本ずつの歯)を見ていないのは論外です。根分岐部病変を伴う歯についても同様です。根分岐部病変に罹患している歯は、隣接歯、対合歯の状態によって保存の可能性が大きく影響されますし、個々の根分岐部病変の罹患状況を適切に正しく評価、把握し、対処することは、その歯の長期保存に欠かせません。
 根分岐部病変は歯科臨床で比較的高頻度で遭遇する、やっかいな歯周病変です。その診査・診断から最終的な治療方針は、担当医によって実に大きく異なっていると思います。分岐部病変の状況(根分岐部病変の分類、歯髄の生死、咬合状態、破折のリスク等)把握も大切です。また前述の通り、根分岐部病変を伴う患者さんの歯周治療計画を立案する際には森(一口腔単位)全体を診る必要もあります。分岐部病変を伴う歯の隣接歯、対合歯、患者さんの特徴等を総合的に把握することは、最終的な咬合回復を見据えた治療計画立案の際に不可欠な条件です。
 個々の歯を単位とすれば保存可能な歯(歯根)であっても、骨レベルの保持等も含め、総合的に判断すると早期の抜歯が望ましい場合もあります。根分岐部病変罹患歯は、保存を目的に歯内処置や歯根分離・歯根切除まで施し、やっとの思いで固定しても、結果的に数年の内に歯根破折や歯周病の再発等で抜歯に至ることも臨床上少なくありません。そのため、MI (minimal intervention)の観点から抜髄処置や動揺歯固定のための健全歯質の削除をできるだけ避けることが結果的に長期に保存できる場合が数多くあります。また将来的には最終的に抜歯してインプラントに置換することを念頭に、根分岐部病変部を歯周外科処置等で清掃性を改善し、抜歯までの間をSPT管理することが有効な場合もあります。
 本講演では、根分岐部病変を伴う歯周病患者さんの治療計画を立案する際に是非押さえておくべきポイントや、根分岐部病変に罹患した歯に対し、何を診査基準にどのような方針・処置が考えられるか等、具体例を参考に解説しました。また、温故知新を念頭に歯周外科とインプラントで保存できる歯とインプラントに置換した方が良い歯を早期に見極め、一口腔単位で仕上げる重要性もお話ししました。それら具体的な知識や技術は、下記の参考文献や関連動画を参照することにより確認可能です。今回のテーマである根分岐部病変も含め、歯周病診療をする際に本当に大切なことは、木をみる(1本1本の歯を分岐部病変も含め細かく診る)、森を見る(一口腔単位として診る)、人を見る(人物として診る)です。私はこれをいつも心がけるようにしております。今回の講演が少しでも皆様の日常臨床の一助になれば幸いです。私のつたない講演におつきあいいただきまして、誠にありがとうございました。

参考文献他

  1. 第9章 根分岐部病変の治療 八重柏隆、村井治 98~107p 臨床歯周病学第二版(医歯薬出版、2013)
  2. ヘミセクション、ルートリセクション、トライセクション等の動画ファイル(日本歯周病学会HP http://www.perio.jp/、歯周病学基礎実習動画サイトより無料ダウンロード可能)
重柏 隆先生

「補綴歯科学の今後の展望」と「今さら聞けないインプラントの基礎知識」

近藤 尚知先生
近藤 尚知 先生

講師:近藤 尚知先生
(岩手医科大学歯学部 補綴・インプラント学講座 教授 )

  1. インフォメーション・テクノロジーを応用した最新の補綴治療システム
  2. インプラントをいかに補綴治療に応用するか?
  3. 理想的な治療計画の立案の重要性!!!
  4. 問題症例の検証:なぜインプラント治療に関するトラブルが多いのか?
  5. まだ間に合う!(今さら聞けない)インプラントの基礎知識:患者さんとの一問一答を例に

 近年のインフォメーション・テクノロジー(以下IT)関連技術の発展は目覚ましく、歯科関連の技術もIT革命によって大きく変わりつつある。エックス線CTのデータを利用したインプラント埋入シミュレーションの過程を経てサージカルガイドを光造形によって作製したり、CAD/CAMテクノロジーによって削り出して、埋入手術に応用するといった手技は、すでに常識的なものになりつつある。セラミック修復物の製作に至っては、セラミックブロックからクラウンやブリッジのフレームを削り出すだけでなく、印象採得もデジタル化され、口腔内を光学的にスキャンして、そのデータからダイレクトに、CAD/CAMテクノロジーを応用して補綴装置製作を完了すことまで可能となってきている。つまり、印象材や石膏不要の時代もそこまで来ているという予感さえするくらいにIT技術の歯科医療への導入スピードには目覚ましいものがある。
 一方、インプラントを含めた補綴歯科治療も、単に噛めれば良いという時代から、審美的要件も満たしたものが求められる時代へとかわりつつある。また、超高齢社会に突入した日本においては、歯科疾患の動態だけでなく全身疾患にも配慮しながら、これらの要件をクリアしていく必要がある。それと並行して、様々な新規材料と新たな技術の開発によって、より天然歯に近い高度な補綴処置が行えるようになり、患者側の要望に十分応えることができるようになってきた。このような状況は、患者にとって大きな福音であるが、我々歯科医師は、常に新たな知識と技術の修得に努めていかなければならないことも事実である。
 上記内容をふまえ、今後の歯科医師の向うべき方向を検討してきた結果、その第1歩として、最新の技術を応用した理想的な治療計画の立案できる歯科医師を育てることが重要であるという結論に達した。理想的な治療を歯科医師が提案し、患者との相談を経て、時間的かつ経済的妥協点を見出し、できるだけ理想に近い、レベルの高い処置を行うのが、本来あるべき姿である。理想的な治療の遂行は、患者のQOLの維持・向上に大きく貢献できるものであり、論理立ててその内容を説明すれば患者にも当然理解できるものである。先進技術の英知を結集した歯科診療を遂行できるよう精進し、それを患者の幸福のために生かすことを考えることが重要であると同時に、先進技術を生かす場を拡大していかなければ、歯科医師だけでなくそれに関わる多くのスタッフ、メーカーの知力・技術力は使われる場を失い、衰退してしまうであろう。
 一方で、インプラント治療に関しては、すでに最新の治療ではなくなり、ほとんどの国民に認識されつつある。しかしながら、未だトラブルが絶えないのも現状である。これまでの問題症例の多くは、歯科医師の不勉強や思い込みが原因であった。加えて、根拠のない価格競争やコスト削減意識が、倫理観の欠如につながり、最悪の事態に発展するケースもあった。勉強する場がなかったのも事実であり、大きな視点でみれば、行政や大学機関等の教育を提供する側に問題があったともいえる。しかしながらそうであったとしても、この情報化社会の中で、自分が間違ったことをしているかどうかさえ分からずに、時代錯誤的な治療をしている歯科医師もいると漏れ伝わってくる。必要な知識や情報を提供する場、その情報を交換したり共有できる場を設けることは急務であると思われる。今後は、インプラント治療に携わっていない歯科医師も、インプラント治療の長所短所などについては、ブリッジおよび義歯と比較しながら説明できるよう、ある程度の基礎知識は持ち合わせるべきである。なぜなら、これから卒業する学生すべてが大学でインプラントに関する教育を受けており、インプラントに関する基礎知識は歯科医師として当然持ち合わせるべきものとなってきているからである。本講演を通じ、上記内容が、今後の歯科医師とりわけ臨床医の進むべき方向についての参考となることを祈念する。

「補綴歯科学の今後の展望」と「今さら聞けないインプラントの基礎知識」
「補綴歯科学の今後の展望」と「今さら聞けないインプラントの基礎知識」
「補綴歯科学の今後の展望」と「今さら聞けないインプラントの基礎知識」
近藤 尚知先生

ランチョンセミナー

地域は私たちを待っています!
 -かかりつけ歯科医が取り組む子育て支援-

田中 英一先生
田中 英一 先生

講師:田中 英一先生
(東京都中野区開業、鶴見大学歯学部 非常勤講師、昭和大学歯学部 兼任講師)

 元気な地域は、子どもの笑顔があふれています。子どもは、地域のそして社会のたからです。しかし、最近の報道を見ると、笑顔のない子どもが少なくありません。
 日本の子ども達のおかれている状況をみると、医療、教育、福祉といった社会制度は充実しているものの、虐待、不登校、食習慣、家庭環境など課題も少なくありません。口の中に目を向けても、30年前のう蝕の洪水と言われた状態からは大きく改善されているものの、う蝕罹患率の地域格差は大きく、地域の中でもう蝕が何本もある子どもがいて、2極化が進んでいます。
 こうしたなかで、私たち歯科医師のパワーは、子どもの笑顔を増や力になるはずです。診療室でのわずかな取り組みが、子育ち・子育て支援につながります。
その基盤になるのは、「疾病や異常の発見という視点だけではなく、子育ち・子育てという生活の営みへの支援が求められていて、子どもだけでなく、母親や家庭、そして地域へも目を向けること」です。歯科医師として「口は心や身体に直結する器官である」ことを意識することも大切です。
たとえば、「指しゃぶりをする子ども」に出会ったとき、「歯並びが悪くなるからすぐやめなさい」などと指導するのではなく、指しゃぶりが生理的な行為に端をはっしていて、子どもの発達に合わせて消失していくことが多いことを理解し、子どもの生活全体に目を向けた対応、「退屈なときや、眠いときだけならば、様子を見守りましょう!」あるいは「していない時を見つけて、褒めて上げてください」といった支援も可能です。
「むし歯が多い子ども」と出会ったとき、お母さんの歯磨きの不十分さを指摘するのではなく、どうしてうまくできないのかを一緒になって考える姿勢が、お母さんの不安を軽減することにつながります。1日の生活パターンを調べてみたらどうでしょう。お母さんのいいところ、「おやつの後にはお茶を飲ませている」などを見つけて褒めることもいいかもしれません。子どもがいやがらずに歯磨きをさせてくれる技を伝えることもできます。
子どもやお母さんの声を聞いてあげると、笑顔が拡がります。「歯並び」や「むし歯」といった歯科医師の視点だけでなく、子どもや親の気持ちを受け止め、共感してあげることが第一歩です。こうした取り組みは、子ども虐待の早期発見のみならず、子育ての負担を軽減することからその予防にもかかわることになります。
 診療室で、お母さんの話を良く聞いてみると、いろいろなことが見えてきます。むし歯を作らないようにという気持ちから、母子感染しないようにお父さんと使う食器を別々にしたりしているお母さんもいます。野菜嫌いの子どもに、野菜ジュースなら飲んでくれると安心しているお母さんもいました。みな良かれと思っていることが課題であることも少なくありません。かかりつけ歯科医として、子どもやお母さんに寄り添うことから、見えてくること、そして応援してあげられることが浮かび上がってきます。
 子どもの安全にも私たちはかかわることができます。最近、歯ブラシによる事故が問題になっています。歯磨きになれるようにと歯ブラシをおもちゃのように使って口の中を切ったり、刺さったりすることがあります。歯磨き指導の時、こうしたことへの啓発をすることも大切です。窒息も乳幼児の死因の多くを占めています。食べる機能の発達を知る私たちだからこそできることもあるはずです。
 子どもの健康を願えば、診療室だけでなく、地域の健康力を高めることにもかかわることが大切です。地域の医師の先生方とタッグを組んで地域保健活動に取り組むことも役割の一つでしょう。
 私たちかかりつけ歯科医が目指すのは、言い換えると、地域から期待されていることは、地域のこども達のう蝕有病者率をゼロに近づけることだけではありません。口と歯の健康づくりから、健やかで笑顔いっぱいのこども達がいて、子育てが楽しい街づくりにかかわることです。

田中 英一先生